多汗症の症状
この記事のポイント
- 多汗症とは、多量の汗が出て日常生活に支障をきたしている状態
- 10~30代の比較的若い世代に発症しやすい
- 原因の多くは、精神的な緊張によるもの
- 本人が問題ないと感じていれば、その人は多汗症でなく「汗っかき」
- 多汗症の汗とワキガの原因となる汗は分泌する汗腺が違う
- 多汗症は多量の汗が出る症状、ワキガは脇から強いニオイを発する症状
多汗症とは、全身または局所的(身体の一部分)に多量の汗が出ることで、日常生活に支障が出ている状態を指します。一般的に、運動をしたとき、緊張したとき、辛いものを食べたときなどは汗が出やすい状態ですが、多汗症の場合、そのような状態でなくても汗が多量に出てしまいます。
重度の多汗症になると、日常生活に支障が出るほど過剰に発汗するという特徴があります。症状の程度にもよりますが、したたり落ちるほど多量の汗が出て勉強中や仕事中もタオルが手放せない、本や書類が濡れてしまう、常に汗が出ているために指先などの末端が冷えているなどといった症状があります。
調査した国や多汗症があらわれた部位にもよりますが、10~30代の比較的若い世代に発症しやすい傾向があります。また、原因の多くは精神的な緊張によるものとされています。
多汗症と汗っかきの違い
多汗症は、症状が重い場合、手のひらからしたたり落ちるほど多量に発汗することもあります。多量の発汗によって指先の冷え、手足の水ぶくれなどの皮膚症状を引き起こす場合もあります。
しかし、症状が軽い場合は手のひらが湿っているなど、一般的な「汗っかき」との線引きが曖昧です。日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2015 年改訂版」では、多汗症の診断基準を以下のように定めています。
局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上認められ、以下の6症状のうち2項目以上あてはまる場合を多汗症と診断している。
- 最初に症状がでるのが25歳以下であること
- 対称性に発汗がみられること
- 睡眠中は発汗が止まっていること
- 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
- 家族歴がみられること
- それらによって日常生活に支障をきたすこと
項目6の通り、多汗症は発汗の程度だけでなく「多汗によって日常生活に支障をきたす」かどうかも診断の基準になります。つまり、発汗量が多くても本人が日常生活に問題はないと認識していれば、その人は多汗症ではなく「汗っかき」ということになります。
多汗症とワキガの違い
多汗症は多量の汗が過剰に出ている状態、ワキガは脇から強いニオイが発生している状態を指し、まったく別のものになります。
多汗症で多量の汗をかいた結果として汗がにおっていることはありますが、多汗症の汗とワキガの原因となる汗は分泌する汗腺が別で、多汗症の汗のニオイとワキガの独特なニオイは異なります。
また、多汗症の汗は、主に体温調節のためにエクリン腺から分泌されるサラッとした汗でニオイはしません。これに対し、ワキガの原因となる汗はアポクリン腺から分泌され、老廃物や皮脂を含んだベタベタした汗です。硫黄やカレーのスパイスなどに喩えられるワキガの独特なニオイは、この汗が表皮で分解されるときに発生します。
ただし、ワキガの人は多汗症を併発していることも多いため、汗の量だけでなくニオイも気になる場合は、病院の皮膚科・形成外科などで相談してみると良いでしょう。
ワキガ | 多汗症 | |
---|---|---|
汗の量 | 普通 | 多量 |
汗の状態 | ベタベタしている | サラッとしている |
原因となる汗腺 | アポクリン腺 | エクリン腺 |
ニオイ | 独特のニオイ | 汗くさい場合がある |
多汗症の種類と原因
この記事のポイント
- 多汗症の約9割が身体の一部のみ多量に発汗する「局所多汗症」
- 局所多汗症のもっとも多い原因は、精神的な緊張
- 多汗症は原因が不明の「原発性多汗症」と、何らかの疾患や薬が原因の「続発性多汗症」に分けられる
- 原発性多汗症は、思春期~中年世代で発症しやすい
- 続発性多汗症の原因は、更年期障害、末梢神経の損傷など様々
全身が多量に発汗する状態を「全身多汗症」、手のひらや足の裏、頭部や顔、腋(わき)など局所的に発汗する状態を「局所多汗症」と呼びます。多汗症のうち約9割が局所多汗症と言われていますが、局所性多汗症のうちもっとも多い原因は精神的な緊張によるものです。
また、全身・局所いずれの場合も、症状の原因が不明である「原発性多汗症」と、何らかの疾患や内服している薬によって引き起こされる「続発性多汗症」に分けられます。続発性多汗症の場合、多汗症の治療の前に原因となる病気を先に治療する必要があります。
原発性多汗症
全身多汗症・局所多汗症ともに原因が不明の多汗症を「原発性多汗症」と呼びます。
手のひらや足の裏に多量の汗をかく「原発性掌蹠多汗症(げんぱつせいしょうせきたかんしょう)」や脇に多量の汗をかく「原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)」もこれに含まれ、有病率は人口の5~6%程度と言われています。思春期~中年世代の若い人に発症しやすく、同じ家族にも同様の症状があらわれることが多いことから遺伝性疾患である可能性が指摘されています。
原発性多汗症は治療のガイドラインがあり、まずは塩化アルミニウムの外用薬や、イオントフォレーシスと呼ばれる水道水の入った容器に患部を浸して微弱な電流を流す治療を行います。それでも効果があらわれなかった場合は、ボトックス注射での治療を行います。
続発性多汗症
何らかの疾患や内服している薬によって引き起こされる多汗症を「続発性多汗症」と呼びます。
全身性の症状が出る原因である疾患の一例として、甲状腺機能亢進症や糖尿病、更年期障害などがあり、局所性の一例としては、精神的な緊張や末梢神経の損傷などが挙げられます。いずれの場合も、まずは原因である疾患の特定と治療が優先されます。
多汗症かも?セルフチェックシート
この記事のポイント
- チェックの内容が継続して時々あてはまる、またはよく当てはまる方は多汗症の可能性あり
- 多汗症の多くは原因がわからない「原発性多汗症」
- 何らかの疾患が原因の「続発性多汗症」は、早急に疾患の治療が必要な場合もある
以下の5項目が継続して時々あてはまる、またはよく当てはまる方は、多汗症の可能性があります。
多汗症の多くは原因がわからない「原発性多汗症」とされていますが、何らかの疾患が原因である「続発性多汗症」の可能性もあります。続発性多汗症は、原因である疾患によっては早急な治療が必要な場合もありますので、あてはまる項目が多い方は速やかに医療機関に相談することをおすすめします。
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暑くない、運動していないのに汗がでる
全身・局所問わず、一般的に汗をかくような状況ではないにも関わらず多量に汗が出てしまうのは、多汗症の主な症状な一つです。局所性の場合、手のひら、額、脇の下、足のうらなどが汗をかきやすい部位になります。
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足のニオイが気になる
足の裏に局所的に多量に汗をかく症状を「足蹠(そくせき)多汗症」と呼びます。靴などを履いて通気性がよくない状態で多量に発汗することで雑菌が繁殖しやすい環境となってしまい、悪臭の原因につながる場合があります。
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他人から汗のニオイや体臭について指摘されたことがある
多汗症の汗は、主に体温調節のためにエクリン腺から分泌されるサラッとした汗なのでニオイはしません。ですが、多量の汗をかくと皮膚常在菌の働きでニオイが発生して、いわゆる「汗くさい」状態になってしまう場合があります。
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手のひらが湿っている、汗ばんでいることが多い
緊張したり、焦ったり、不安を感じているとき、手のひらに汗をかくことがあります。これは「精神性発汗」と呼ばれる体温調節とはあまり関係ない汗とされていますが、多汗症の症状として、こういったストレスやプレッシャーを感じるシーンでなくても発汗することがあります。
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近親者に多汗症の人がいる
多汗症の原因についてはまだはっきりとわかっていないことが多いものの、海外では多汗症患者のうち60~65%に家族内に同じような症状の人がいたという報告があります。
また、多汗症そのものが遺伝するのではなく、交感神経が活発化しやすい体質などが家族間で似ることで多汗症が発症しやすい傾向があるとも考えられています。
多汗症の治療法
この記事のポイント
- 原発性多汗症は、塩化アルミニウム外用薬やイオントフォレーシスでの治療から始める
- 続発性多汗症は、原因となっている疾患・薬の特定と疾患の治療が優先
- 局所多汗症は意図的にリラックスすることである程度予防できる場合がある
- 早く治療を終わらせたいニーズからミラドライやビューホットも人気
多汗症は、何らかの疾患や内服している薬によって引き起こされる「続発性多汗症」と、原因がはっきりしない「原発性多汗症」に分かれます。
続発性多汗症の場合は、原因となっている疾患の治療が優先されます。疾患の一例としては、甲状腺機能亢進症、糖尿病、末梢神経の損傷などが挙げられます。
原発性多汗症の場合は治療のガイドラインがあり、まずは塩化アルミニウム外用薬の塗布や、水道水の入った容器に患部を浸して微弱な電流を流す治療(イオントフォレーシス)を行います。それでも効果があらわれなかった場合は、安全なボツリヌス菌の毒素を患部に注射するボトックス注射を行います。ボトックス注射は、2012年11月より、重度の「原発性腋窩(えきか)多汗症」と診断された場合に限り保険適用で治療を受けられるようになりました。
また最近は、汗の原因である汗腺の組織を破壊するミラドライやビューホットといった「切らない治療」も増えています。施術の痛みが少なくやダウンタイムも短いことから、痛みに弱いお子様から早く治療を終わらせたい社会人の方まで、幅広く支持されています。
多汗症を予防するには
多汗症の約9割を占める「局所多汗症」の場合、もっとも多い原因は、ストレス・緊張・不安といった精神的な緊張によると言われています。したがって、意図的に緊張を和らげたり、リラックスして汗腺の働きを司る交感神経が優位になることを防ぐという予防法があります。
ただし、続発性多汗症は何らかの疾患や服用している薬が原因のため、まずは原因の特定と疾患の治療が最優先になります。以下の予防法は、あくまで局所多汗症において精神的な緊張が原因だった場合に限るものになります。
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食生活を改善する
多汗の原因になる交感神経を優位にする食べ物の過剰な摂取は控えたほうが良いでしょう。辛いもの、コーヒーなどのいわゆる「刺激物」以外に、酸っぱいもの、甘すぎるものも交感神経を優位にします。
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生活習慣を改善する
多汗の原因になる、交感神経を活発にする生活習慣を変えることも多汗の予防につながります。煙草や飲酒などの過剰な摂取は控え、夜はしっかり睡眠をとることで、交感神経を優位にすることを防げます。
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リラックスできる時間を作る
心身ともにリラックスできる時間を作ることで副交感神経が優位になり、汗腺の働きを司る交感神経の働きを抑えることができます。ぬるめの入浴やマッサージなど緊張をほぐす時間を作り、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
多汗症を治療するには
様々な原因で引き起こされたり、原因がわからないことも多い多汗症は、医師に相談した上での治療が必要です。
また、症状の度合いによっても治療方法が変わります。例えば、糖尿病などの疾患が原因の「続発性多汗症」だった場合は、まずはその疾患を治療した上で多汗症の治療方針を決めなければなりません。
原因がはっきりわからない「原発性多汗症」の場合は、ガイドラインに則り塩化アルミニウム外用薬の塗布やイオントフォレーシス、ボトックス注射を行うことが一般的です。
しかしながら、近年は通院せずに短期間で治療を終わらせたい、痛みの少ない治療をしたいといったニーズから、皮膚を切らずに汗腺そのものを破壊できるミラドライやビューホットが注目されるようになりました。
切らない多汗症・ワキガ治療1番人気!ミラドライ
ミラドライは、患部にマイクロ波を照射することで汗やニオイの原因である汗腺「アポクリン腺」「エクリン腺」の組織を破壊して汗とニオイを抑える治療法です。汗腺そのものを破壊するため、施術後すぐに汗の量・ニオイの減少を実感できます。また、一度破壊された汗腺は再生しないため、半永久的な効果が期待できます。
皮膚を切らずに治療できるので傷跡が残らず、施術後の通院も基本的に不要です。また、ダウンタイムが短いため施術当日のシャワー、翌日からの入浴が可能で、施術による行動制限が少ないことも大きな特徴です。
自由診療のため、両脇の施術で費用が約30万円~と高額ですが、モニター料金が用意されているクリニックも多くあります。短期間でストレスなく多汗症・ワキガ治療がしたい方におすすめです。
多汗症・スソワキガ・チチガの治療におすすめ!ビューホット
ビューホットは、高周波を放出する極細の針を患部に挿入し、汗やニオイの原因である汗腺「アポクリン腺」「エクリン腺」の組織を熱で破壊する治療法です。特許技術のクーリングで冷却しながらの施術が可能なので、やけどなどの合併症の可能性が少なく、治療中の痛みがほとんどありません。
機器のヘッド部分が小さく作られているため、広い範囲だけでなくピンポイントの施術も得意です。そのため、多汗症だけでなくスソワキガやチチガの治療にも適しています。
また、施術時間が15~30分程度と短く、ダウンタイムもほぼありません。ミラドライと同様切らない治療のため傷跡は残りませんが、施術後かさぶたができる場合があります。多くの方が1回の治療で効果を実感でき、1~2回の治療で再発の可能性はほぼなくなると言われています。
約10分で施術完了、手軽さNo.1!ボトックス注射
ボトックス注射は、安全なボツリヌス菌の毒素を患部に注射し、発汗を促す神経伝達物質の働きを抑制することで、汗の分泌を抑える治療です。2012年11月より、重度の「原発性腋窩(えきか)多汗症」と診断された場合は保険適用で治療を受けられるようになりました。
1回の注射で約半年間効果が持続すること、注射のみの治療なので施術が約10分で完了するという手軽さが人気です。多汗症において特に効果が高い治療ですが、汗の量が減ることでニオイも減少することから、ワキガの治療にも採用されています。
注入するボトックス製剤の種類や量(単位)によって費用や効果が変わるため、予算と効果を踏まえて自分にあったものを選ぶことができます。日本では厚生労働省の認可を受けている、アラガン社の製剤「ボトックスビスタ」が主流です。
汗腺切除で再発リスク低め!外科手術
多汗症・ワキガの外科手術は様々な種類がありますが、もっとも一般的な施術は「反転剪除法(皮弁法)」と呼ばれる脇の内側の皮膚を切開してニオイのもとであるアポクリン汗腺とエクリン汗腺を目視で確認しながら切除する施術になります。汗腺そのものを切除するため再発の可能性が低いというメリットがあります。
皮膚を切開するため、抜糸などの術後のケアを含め数カ月間通院する必要があります。また、抜糸までの入浴制限や術後数週間の運動制限など、日常生活への影響はもっとも大きい治療法になります。
とはいえ、かつての外科手術に比べると入院の必要もなくなり、傷跡も小さく済む施術が増えました。なお、ワキガは医師の診断によっては保険適用で治療を受けられますが、多汗症は保険適用の範囲外になります。
多汗症の治療にかかる費用
この記事のポイント
- 安価な治療は1,000円程度、高額なものは数十万円かかる
- イオントフォレーシスや塩化アルミニウム外用薬は低コストだが継続的な治療が必要
- ミラドライやビューホットは費用は高額だが一度の治療で半永久的な効果が期待できる
- 重度の原発性腋窩(えきか)多汗症と診断された場合は保険適用でボトックス注射を受けられる
多汗症治療は、治療方法や施術する部位によって費用が大きく変わります。保険適用で受けられる治療は両手足のイオントフォレーシス、もしくは重度の原発性腋窩(えきか)多汗症と診断された場合のボトックス注射になりますが、イオントフォレーシスは1回660円程度の費用なのに対し、ボトックス注射は3割負担でも20,000円~程度かかります。
自由診療では、ミラドライやビューホットで約30万円、ボトックス注射も数万円の費用が必要ですが、塩化アルミニウム溶液は100mlの容量で1,000円程度の費用で治まります。
イオントフォレーシスや塩化アルミニウム外用薬は費用を抑えることはできますが、継続的な治療が必要になります。ミラドライやビューホットは費用は高額ですが、多くの場合一度の治療で半永久的な効果が期待できます。※ページ内の価格は、全国に展開しているクリニック20院のホームページから平均費用を算出したものになります(2020年11月時点)。
※初診・再診料、麻酔代、お薬代など別途費用が発生する場合があります。
ミラドライ | |
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両脇 | 約280,000円~400,000円(税込約308,000円~440,000円) |
ビューホット | |
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両脇 | 約300,000円~320,000円(税込約330,000円~352,000円) |
手のひら・足の裏 | 約250,000円~330,000円(税込約275,000円~363,000円) |
ボトックス注射 | |
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両脇(自由診療の場合) | 約50,000円~100,000円(税込約55,000円~110,000円) |
両脇(自己負担3割の場合) | 約20,000円~60,000円(税込約22,000円~66,000円) |
塩化アルミニウム溶液 | |
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濃度20%/100ml | 約1,000円~(税込約1,100円~) |
濃度40%/100ml | 約2,000円~(税込約2,200円~) |
イオントフォレーシス | |
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手のひら・足の裏(自己負担3割の場合) | 約600円~(税込約660円~) |