ボトックス注射ってどんな治療?
この記事のポイント
- ボトックス注射とは、安全なボツリヌス菌の毒素で汗腺の働きを抑制し、汗を抑えるワキガ・多汗症治療
- 使用する製剤の種類や量(単位)によって、価格や効果が変わる
- 脇以外に、額・手のひら・足の裏などの部位にも施術できる
- 医師の診断によっては、保険適用で治療を受けられる場合もある
- 1回の注射で約6ヶ月効果が持続し、効果を継続するには定期的な施術が必要
- 自由診療で受けられるワキガ・多汗症治療の中では比較的安価
ボトックス注射とは、安全なボツリヌス菌の毒素を患部に注射し、筋肉や汗腺の働きを抑制することで発汗を抑える治療です。汗そのものの分泌を抑えるので多汗症の治療はもちろん、汗が原因のニオイに対しても効果的なため、ワキガ・多汗症治療の一つとして多くのクリニックで取り入れられています。
多汗症治療では、制汗剤や塩化アルミニウム外用薬を塗布するものや、イオントフォレーシスと呼ばれる患部を水道水に浸して微弱な電流を流す治療がありますが、これらで効果が十分得られなかった場合の治療法としてボトックス注射が採用されることが多いです。
ボツリヌス菌は食中毒の原因菌の一種ではありますが、菌そのものを注入するわけではないので感染の心配はありません。注入するのはボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を有効成分とした薬剤になります。
また、原因がはっきりとわからない脇の多汗症「原発性腋窩(えきか)多汗症」で症状が重度の場合、2012年11月より保険適用でボトックス注射を受けることができるようになりました。医師の診断が必要のため、まずは最寄りの皮膚科で相談してみると良いでしょう。
ボトックス注射の効果はすぐに出る?効果は継続する?
ボトックス注射は、筋肉を収縮させて汗腺の働きを抑制することで汗を抑える治療法です。ボトックス製剤を注入して筋肉が収縮し始めるまでの期間には個人差がありますが、多くの場合、施術後2~3日でわきの汗が減少し始め、2週間~4週間で効果が安定します。その後、およそ4ヶ月~9ヶ月、平均6ヶ月程度効果が継続します。
ボトックス注射は、効果が半永久的に継続するわけではないので、長期的な効果を得たい場合は汗の抑制効果が消えないうちに次の施術を繰り返し受ける必要があります。半永久的な効果が得られる施術としては、ミラドライやビューホットなどがありますが、いずれも自由診療で治療費用が高額なので、治療法を選ぶ際には考慮した方が良いでしょう。オケージョンシーンなどで一時的に汗を抑えたい方にはうってつけの治療法とも言えます。
また、注入する製剤の種類や容量で、効果をある程度調整することもできます。脇の多汗症治療の場合、100単位がほぼ確実に効果が出る容量と言われています。
ボトックス注射のメリット・デメリット
ボトックス注射は、注射だけで治療が完結する手軽さと、自由診療の中では比較的価格も安い点が人気です。ダウンタイムが発生しないため、ワキガ・多汗症の治療では避けられない入浴・シャワーの制限もなく、傷跡も残りません。
一方で、汗を抑制する効果は一時的なものなので、効果を継続させるには繰り返し治療を受け続ける必要もあります。ワキガ・多汗症の治療として検討する際には、効果の持続性、必要な費用などを踏まえて選ぶと失敗が少ないでしょう。
ボトックス注射のメリット
- 注射のみなので施術時間が非常に短く、手軽に治療できる
- 額・手のひら・足の裏など、脇以外の狭い部位も施術できる
- 傷痕が残らずダウンタイムも発生しない
- 施術当日から入浴もメイクもOK
ボトックス注射のデメリット
- 効果があらわれるまで2~3日かかる
- 平均して約6ヶ月の効果のため、効果を継続させるには定期的な施術が必要
- まれに副作用として施術部位が赤く腫れたり、身体がだるくなることがある
ボトックス注射の種類
ボトックス注射は、粉末状のボトックス製剤を溶かしたものを患部に注入する治療法ですが、この製剤は国内で製造されておらず、海外の様々な製薬会社から輸入したものを使用しています。どの製剤を使うかによってボトックス注射の費用は大きく変わり、個人差はありますが、効果も製剤によって変わると言われています。
現在、国内のクリニックで多く使用されている製剤の一例として、「ボトックスビスタ」と「リジェノックス」を比較すると以下のようになります。
※ページ内の価格は、全国に展開しているクリニック20院のホームページから平均費用を算出したものになります。
※初診・再診料、麻酔代、お薬代など別途費用が発生する場合があります。
ボトックスビスタ | リジェノックス | |
---|---|---|
製造国 | アメリカ | 韓国 |
製造会社 | アラガン社 | ハンスバイオメド社 |
承認された公的機関 | 厚生労働省 | KFDA(韓国の食品医療品安全庁) |
平均費用(両脇の場合) | 約77,269円(税込約84,995円) | 約39,194円(税込約43,113円) |
特徴 |
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国内でもっともよく使用されているボトックス製剤は、アメリカアラガン社の「ボトックスビスタ」になります。ボトックス製剤の中では高価な部類になりますが、厚生労働省に認可されている安全性と効果の高さから採用しているクリニックが多くあります。
「リジェノックス」は、厚生労働省の承認は受けていませんが、製造国である韓国の食品医療品安全庁・KFDAの認可を受けている製剤です。ボトックスビスタに比べて4割~半額程度の価格で施術を受けられるクリニックが多く、治療費をかなり抑えることができます。
ボトックス注射の「単位」とは?
ボトックス注射の料金ページなどでよく見かける「単位」とは、ボトックス製剤1瓶に入っている容量を指します。国内でもっとも広く認知されている米国アラガン社のボトックスビスタの場合、1瓶で100単位入っているものや50単位のものがあります。
瓶の中には白い粉が微量に入っており、この粉を生理食塩水で希釈したものを注入します。100単位であれば、通常2.5mlの生理食塩水に溶かして使用します。希釈する生理食塩水の量は、クリニックの治療方針や治療部位によって異なるため、同じ単位でも注入する量が異なることもあります。
例えば、脇のようにボツリヌス菌を広く拡散させたい部位については、多めの生理食塩水で希釈してより広範囲に効果が広がるようにするといった狙いもあります。そのため、必ずしも注入する量や単位が多ければ効果が高いというわけではなく、治療の目的に対して注入量と使用する製剤の単位が合致していることが大事になります。
ボトックス注射の費用はどのくらいかかる?
この記事のポイント
- ボトックス注射の費用は、製剤の種類と単位と呼ばれる量によって大きく異なる
- 両脇施術の平均費用は約4万~8万円
- 手のひら・足の裏の施術の平均費用は約5万~12万円
- 重度の「原発性腋窩(えきか)多汗症」と医師が診断した場合は、保険適用でボトックス注射を受けられる
ボトックス注射は自由診療になるため、保険適用外の扱いになります。費用は使用する製剤の種類と単位(製剤の容量)によって大きく変わりますが、どの製剤をどのくらいの量使用するのかホームページ上に明記していないクリニックもあります。また、モニターはほぼ募集されていません。
治療する部位によって、製剤の単位は多すぎても少なすぎても効果が不十分な場合があり、それらの判断はクリニックによって異なります。製剤の単位が適切かどうか心配な方は、事前に医師に相談し説明をお願いしたほうがよいでしょう。
ボトックス注射の費用のチェックポイント
- 使用しているボトックス製剤はどれか?
- 使用する容量(単位)はどのくらいか?
- 治療費用が不自然に安すぎたりしないか?
ボトックス注射平均費用(両脇) | |
---|---|
リジェノックス | 約39,194円(税込 約43,113円) |
ボトックスビスタ | 約77,269円(税込 約84,995円) |
ボトックス注射平均費用(その他) | |
---|---|
手のひら・足の裏(リジェノックス) | 各49,660円(税込 各約54,626円) |
手のひら・足の裏(ボトックスビスタ) | 各約119,250円(税込 税込各約131,175円) |
※ページ内の価格は、全国に展開しているクリニック20院のホームページから平均費用を算出したものになります。
※初診・再診料、麻酔代、お薬代など別途費用が発生する場合があります。
保険適用でボトックス注射を受けられる?
2012年11月より、重度の「原発性腋窩(えきか)多汗症」と医師が診断した場合、保険適用でボトックス注射を受けることができるようになりました。「原発性腋窩多汗症」は医師による診断基準を満たしていれば、ボトックス注射に限らず保険適用で治療を受けることが可能です。
日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2015 年改訂版」によると、「原発性多汗症の診断基準」と「原発性多汗症の重症度判定」は、それぞれ医師によって以下のように診断されています。
原発性多汗症の診断基準
局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上認められ、以下の6症状のうち2項目以上あてはまる場合を多汗症と診断している。
- 最初に症状がでるのが25歳以下であること
- 対称性に発汗がみられること
- 睡眠中は発汗が止まっていること
- 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
- 家族歴がみられること
- それらによって日常生活に支障をきたすこと
原発性多汗症の重症度判定
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
「原発性多汗症の診断基準」を満たしていると医師が判断した場合、保険適用で治療を受けることができます。その上で、「原発性多汗症の重症度判定」において③④に該当すると医師が診断した場合、重症と判定されます。
ボトックス注射はこんな方におすすめ
この記事のポイント
- ボトックス注射は、手軽なワキガ・多汗症治療を始めたい方におすすめ
- 注射なので、額や手のひら・足の裏など狭い範囲の治療を受けたい方にもおすすめ
- 痛みや腫れ、ダウンタイムなど、日常生活への影響はもっとも少ない
- 効果は一時的なものなので、半永久的な効果にこだわる方はミラドライやビューホットの方が良い
1回10分程度の注射のみで半年間程度の効果が見込めるボトックス注射は、ダウンタイムもほぼ発生せず傷跡も残らないため、ワキガ・多汗症治療を手軽に始めたい方には特におすすめの治療法です。注射のみの治療で痛みも少なく済むので、お子様のワキガ・多汗症治療にもおすすめできます。
脇だけでなく額や手のひら・足の裏など狭い範囲も施術できるので、ミラドライでは治療が難しいとされた方も、ボトックス注射なら治療を受けられる可能性が高いです。また、自由診療の中でも1回の治療費が低額で、医師の診断によっては保険診療で治療を受けることができる点もポイントです。
- 1回の施術に時間をかけたくない方
- 1回の治療費を抑えたい方
- 腫れや痛みによる日常生活への影響をできるだけ少なくしたい方
- 額や手のひら・足の裏など狭い範囲の治療を受けたい方
- 肌に傷痕を残したくない方
ボトックス注射と他のワキガ・多汗症治療の比較
ワキガ・多汗症治療の主な施術を比較すると、ボトックス注射は特に注射するだけの手軽さと施術費用の安さに大きなメリットがある施術と言えるでしょう。施術そのものの時間も10分程度で傷跡が残らず、ダウンタイムもほぼないという点は、他のワキガ・多汗症治療にはない特徴です。
しかしながら、半永久的な効果が得られるミラドライやビューホットと異なり、ボトックス注射による効果は平均して約半年程度のため、継続的な効果を得るには定期的な施術が必要です。
施術による日常生活への影響や治療の予算、効果の持続性など、自分にとっての優先順位を踏まえた上で、まずは医師に相談すると良いでしょう。
施術名 | ボトックス注射 | ミラドライ | ビューホット | 外科手術 (反転剪除法) |
---|---|---|---|---|
皮膚切開 | なし | なし | なし | あり |
傷痕 | なし | ほぼなし | ほぼなし | あり |
施術時間 | 約10分 | 約60分 | 約30分 | 約90分 |
治療の痛み | 弱い | やや弱い | 弱い | やや強い |
費用 | やや高い | 高い | 高い | 保険適用の場合は安い |
ダウンタイム | ほぼなし | 短い | 短い | 長い(施術後3日~1週間安静) |
通院回数 | なし | なし | なし | 抜糸等含め3~5回 |
効果があらわれるまでの期間 | 施術2~3日後から | 施術直後から | 施術直後~数週間後から | 施術直後から |
効果が継続する期間 | 約6ヶ月 | 半永久的 | 半永久的 | 半永久的 |
ボトックス注射でニオイや汗が抑えられるしくみ
この記事のポイント
- 安全なボツリヌス菌の毒素を注入し、発汗を促す神経伝達物質の放出を抑えて発汗そのものを抑制
- 注入するのはボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を有効成分とした薬剤
- 発汗の抑制は一時的なもので、一度の注射で効果が得られる期間はおよそ6ヶ月程度
- クリニックによって使用する製剤の種類と単位(容量)は異なる
ボトックス注射は、安全なボツリヌス菌の毒素を患部に注射して、発汗を促す神経伝達物質の放出を抑えることで、発汗そのものを抑制する治療法です。外科手術のように汗腺そのものを取り除いたり、ミラドライやビューホットのように汗腺を熱破壊するのではなく、汗腺の働きを抑制することで一時的に発汗を抑えます。
そのため、一度の注射で効果が得られる期間はおよそ6ヶ月程度で、継続的な効果を得るには定期的な施術が必要になります。
注入するのはボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を有効成分とした薬剤で、ボツリヌス菌そのものを注入するわけではありません。クリニックによって使用する製剤の種類と単位(容量)は異なります。
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通常の汗腺の状態
暑さや緊張を感じていると脳が認識すると、発汗を促す神経伝達物質「アセチルコリン」が交感神経から放出され、それを受け取った汗腺から汗が出ます。
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ボトックス注射後の汗腺の状態
ボトックスを注入するとアセチルコリンの放出がブロックされるため、発汗が抑制されます。抑制の効果は個人差があります。